ケラのこと   受賞オメデト   1999/04/02記事 

1999/04/02付:朝日新聞:朝刊(画像版はこちら



“ひと”
第43回岸田国士戯曲賞を受ける ケラリーノ・サンドロヴィッチさん


 伝統ある劇作家の登竜門の受賞者リストに、おもしろい名前が加わった。
 学生時代の愛称「ケラ」の名前で、ロックバンド「有頂天」を始めた。一九八〇年代半ばから演劇も手掛け、「ケラでは『作・演出』より短くて格好悪い」と、長いペンネームをでっち上げた。現在は演劇ユニット「ナイロン100℃」を主宰する。
 受賞作「フローズン・ビーチ」は孤島を舞台に、女四人の悪意と殺意が交錯するサスペンス風の喜劇。選考委員の野田秀樹さんは「今の『ムカツク』という気分に、あっけらかんと正直な、不思議な印象の作品」と評した。
 「賞をいただけるのはすごくうれしい」と素直に喜ぶ。
 新作は年に三、四本。「一年中芝居をやっている」が、演劇との付き合い方は冷静でもある。音楽活動を続け、映画作りにも関心を持つ。
 「いろいろなメディアに触れるのを当たり前として、多感な時期を過ごしてきましたから。千八百円の映画と比較して、演劇の入場料は楽しさに見合っているだろうか、といつも考える。限られたファンがあっちこっち動くだけの演劇界に興味はありません。僕の芝居は、その外側の人にも見てほしい」
 そんな視野の広さは、作品の幅につながっている。
 ナンセンス、ゴシックホラー、シュールな近未来劇、ファンタジー、生と死を見据えたドラマと、多彩な作品を繰り出す。共通するのは、都会的で切れの良い、笑いのセンスだ。
 「不安と背中合わせの、悪夢のような笑いが好き。僕はそんな混とんを演劇という形にしているんだと思います」
 一月三日生まれで、本名は小林一三。亡き父はジャズミュージシャンだった。「東宝の創業者、小林一三さんと同名にすることも意識していたのでしょうね」

 別役実を敬愛し「全戯曲を演出したい。あ、100本もあるんだ……」。36歳。




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